福祉用具は、介護が必要になった方が安全で自立した生活が送れるように、動作や機能訓練のサポートをする道具です。福祉用具専門相談員は福祉用具に関する専門的知識を持ち、お一人おひとりに適した福祉用具を選定する役割を担います。
介護職の方でキャリアチェンジを考えている方には、福祉用具専門相談員の仕事に興味を持つ方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は介護職の方が福祉用具専門相談員に転職するメリットや転職する方法、仕事の内容などについて解説します。
今後の働き方について検討の方はぜひ参考にしてください!
介護職から福祉用具専門相談員に転職するメリット
高齢化が進む日本は今後もしばらく要介護者の数が増えていくと見込まれるため、福祉用具専門相談員の需要は続きます。
介護職の方は、これまでの経験から福祉用具を取り扱ったことのある職種です。主に福祉用具を利用する高齢者の特性もよく理解しているというアドバンテージがあるため、福祉用具専門相談員の仕事は適任です。
福祉用具専門相談員になるためには専門的な知識が必要になりますが、土台の知識があるためそれらの理解もスムーズにできるでしょう。
違った形で高齢者との関わりがもてるので、やりがいを持って仕事に取り組めるかもしれません。
福祉用具専門相談員が取り扱う福祉用具の種類
福祉用具専門相談員が取り扱う福祉用具には、介護保険サービスで利用できるものと利用できないものがあります。さらに、介護保険サービスで利用できる福祉用具は、レンタルできるものと購入できるものに分かれます。
福祉用具貸与商品
介護保険でレンタルできる福祉用具は、介護保険上で「福祉用具貸与」と呼ばれる13品目です。介護度によっては給付の対象外になる品目もあるため理解しておく必要があります。
福祉用具貸与商品を以下にまとめました。
品目 | 対象の介護度 | 対象の商品 |
特殊寝台 | 要介護2以上 | サイドレールが取り付けてあるものまたは取り付け可能なもの背部または脚部の傾斜角度が調整できる機能か、床板の高さが無段階に調整できる機能があるもの |
特殊寝台付属品 | 要介護2以上 | マットレス・サイドレール等(特殊寝台と一体的に使用されるもの) |
床ずれ防止用具 | 要介護2以上 | 送風や空気圧の装置を備えた空気マットか、水等の減圧で体圧分散効果をもつ全身用マット |
体位変換器 | 要介護2以上 | 身体の下に挿入し、体位を容易に変換できる機能を持つもの(体位の保持のみを目的とするものは除く) |
手すり | すべて | 取付け工事が不要なもの |
スロープ | すべて | 段差解消のためのもの取付け工事が不要なもの |
車いす | 要介護2以上 | 自走用標準型車いす・普通型電動車いす・介助用標準型車いす |
車いす付属品 | 要介護2以上 | クッション・電動補助装置等(車いすと一体的に使用されるもの) |
歩行器 | すべて | 歩行機能を補う機能、移動時に体重を支える構造を有するもの車輪があるタイプは、体の前と左右を囲む把手等があるもの四脚タイプは、上肢で保持して移動させることが可能なもの |
歩行補助杖 | すべて | 松葉づえ・カナディアンクラッチ・ロフストランドクラッチ・プラットホームクラッチ・多点杖 |
移動用リフト(つり具の部分を除く) | 要介護2以上 | 床走行式・固定式又は据置式であり、かつ身体をつり上げ又は体重を支える構造を有するもの(取付けに住宅改修を伴うものを除く) |
徘徊感知機器 | 要介護2以上 | 認知症を有する方が屋外へ出ようとした時等にセンサーにより感知し、家族や隣人等へ通報するもの |
自動排泄処理装置 | 要介護4以上※ | 尿や便が自動的に吸引されるもの尿や便の経路となる部分を分割することが可能な構造を有するもの(交換可能部品は除く) |
※排便機能を有するものは要介護4以上、それ以外のものはすべての介護度が対象
上記の福祉用具は介護保険を使うと、1〜3割の自己負担でレンタルができます。
介護保険サービスは介護度により受けられるサービスの限度額が決められており、福祉用具のほかにも訪問介護やデイサービスを受けている場合はそれも全部合わせた限度額内で介護サービスを受けることが可能です。
介護保険を利用して福祉用具をレンタルや販売するときには、その必要性がケアマネジャーが作成するケアプランに記載されていなければなりません。支給限度額もケアマネジャーが管理しています。そのため、福祉用具専門相談員の仕事はケアマネジャーとの連携は必須です。
特定福祉用具販売商品
介護保険を利用して購入できる福祉用具は、介護保険上「特定福祉用具販売」と言います。排泄や入浴に使用するような、レンタルにはなじまない福祉用具は介護保険を使って購入できます。
対象の6品目は以下の通りです。
品目 | 対象の商品 |
腰掛便座 | 和式便器の上に置いて腰掛式に変換するもの洋式便器の上に置いて高さを補うもの電動式またはスプリング式で便座から立ち上がる際に補助できる機能があるものポータブルトイレ水洗式のポータブルトイレ |
自動排泄処理装置の交換可能部品 | レシーバー・チューブ・タンク等尿や便の経路となるもので、介護者が容易に交換できるもの |
排泄予測支援機器 | 膀胱内の状態を感知し、排尿の機会を通知するもの |
入浴補助用具 | ・入浴用椅子・入浴台・浴槽用手すり・浴室内すのこ・浴槽内椅子・浴槽内すのこ・入浴用介助ベルト |
簡易浴槽 | 空気式または折りたたみ式等で容易に移動できるもの |
移動用リフトのつり具部分 | 移動用リフトのうち、人体に接する吊り具部分 |
費用のうち9割〜7割が介護保険で支給されるので、利用者は1〜3割を負担することで購入できます。利用できるのは1年につき10万円までです。
福祉用具専門相談員の仕事内容
ここからは福祉用具専門相談員の仕事内容を確認しておきましょう。
相談を受けて福祉用具を提案する
ケアマネジャーやご利用者から相談を受けたら、ご利用者の状況をアセスメントして福祉用具を選定します。
身体の状況や認知症の有無などのお体の状態のみならず、家屋の状況や介護者の状況、生活スタイルなどさまざまな条件を考慮して最適な福祉用具を選択することが大切です。場合によってはご利用者に関わる医療スタッフや介護スタッフなどに意見やアドバイスもらいながら進める必要もあります。
福祉用具サービス計画を作成する
介護保険サービスを使って福祉用具貸与サービスを提供するには、ケアマネジャーが作成したケアプランをもとに「福祉用具サービス計画書」を作成しなければなりません。
ケアプランに記載されているご利用者の「生活上の目標」を達成するための、福祉用具貸与サービスの具体的な内容を明確にします。
計画書を作成したらご利用者に説明し、同意を得て交付します。
福祉用具を納品し使用方法を説明する
選定された福祉用具を納品するのも福祉用具専門相談員の役割です。納品された福祉用具をご利用者のお体の状況や家屋の状況に合わせて使用しやすいように調整します。正しく安全に使えるように、使用方法の説明も丁寧に行うことが大切です。
モニタリング・メンテナンスを定期的に行う
福祉用具は一度納品したら終了ではありません。定期的にご利用者宅を訪問しモニタリングすることが義務付けられています。
モニタリングでは、福祉用具に不具合がないか点検しメンテナンスを行います。また、正しく安全に使用できているかの確認も重要です。
モニタリングを通して不具合や事故の可能性など気になることがあった場合は、ケアマネジャーに報告しなければなりません。その際には福祉用具の使用を中止したり、違う福祉用具を提案したりするケースもあります。
営業活動
福祉用具専門相談員は、営業活動も担います。福祉用具は直接お客様にレンタルしたり販売したりするものではないため、介護施設や居宅介護支援事業所などのケアマネジャーへ営業し、取引先を多く持っておくことが大切です。
新規の事業所ができたときや取引のない事業所にご挨拶にうかがうなどの新規開拓も重要です。新しい福祉用具が出た時には商品をご案内、ご提案することもあります。
何より普段からご利用者やケアマネジャーのニーズを把握し、フットワーク軽く対応することが継続して利用してもらえることにつながります!
福祉用具専門相談員になるには資格が必要?
福祉用具専門相談員になるためには「福祉用具専門相談員指定講習」を受けなければなりません。ただし、研修が免除される介護医療系の資格もあります。
どのようなステップを踏めば福祉用具専門相談員になれるのか確認しておきましょう。
福祉用具専門相談員指定講習を受ける必要がある
現在、医療や介護系の資格を何も持っていない方が福祉用具専門相談員として働くには、合計50時間の講習の「福祉用具専門相談員指定講習」を受ける必要があります。
福祉用具専門相談員指定講習の内容は以下のとおりです。
科目 | 時間 | |
1.福祉用具と福祉用具専門相談員の役割 | 福祉用具の役割 | 1時間 |
福祉用具専門相談員の役割と職業倫理 | 1時間 | |
2.介護保険制度等に関する基礎知識 | 介護保険制度等の考え方と仕組み | 2時間 |
介護サービスにおける視点 | 2時間 | |
3.高齢者と介護・医療に関する基礎知識 | からだとこころの理解 | 6時間 |
リハビリテーション | 2時間 | |
高齢者の日常生活の理解 | 2時間 | |
介護技術 | 4時間 | |
住環境と住宅改修 | 2時間 | |
4.個別の福祉用具に関する知識・技術 | 福祉用具の特徴 | 8時間 |
福祉用具の活用 | 8時間 | |
5.福祉用具に係るサービスの仕組みと利用の支援に関する知識 | 福祉用具の供給の仕組み | 2時間 |
福祉用具貸与計画等の意義と活用 | 5時間 | |
6.福祉用具の利用の支援に関する総合演習 | 福祉用具による支援の手順と福祉用具貸与計画等の作成 | 5時間 |
50時間 |
カリキュラムでは福祉用具の知識はもちろん、介護保険制度や福祉用具に係るサービスの仕組み、ご高齢者の介護や医療に関する知識など幅広く学びます。
講習は全国各地で行われており、どなたでも受講可能です。最近ではオンライン講習を開催しているところもあります。
講習が免除になる資格がある
福祉用具専門相談員指定講習は下記の医療・介護系資格があれば免除されます。
- 看護師、准看護師
- 保健師
- 理学療法士
- 作業療法士
- 介護福祉士
- 社会福祉士
- 義肢装具士
これらの資格を持つ方は介護保険制度やご高齢者の心身の状況に関する知識などはすでに持っているとみなされるため、講習が免除となりそのまま福祉用具専門相談員の職に就くことが可能です。
福祉用具専門相談員の仕事はきつい?
1番気になるのは福祉用具専門相談員の仕事は実際のところきつくないの?という点ですよね…
介護職員と同じ福祉関連の仕事ですが仕事内容が異なるため、また別の大変さを感じてしまうかもしれません。
ここからは、福祉用具専門相談員がきついと言われる理由をお伝えします。介護職員との違いを理解しておきましょう。
力仕事が多い
福祉用具専門相談員がきついと言われる原因の一つに挙げらるのが、力仕事が多い点でしょう。介護職も力仕事ですが、福祉用具の重量とはまた異なります。大きなものでは電動ベッドが80kg〜90kg以上もの重さがあります。他にもリフト・車椅子・スロープなどさまざまな福祉用具を運び、設置や組み立てなどもしなくてはなりません。
階段を使用しなければならない場合や、狭くて搬入しにくい場所などに福祉用具を設置しなければならないこともあり、このような重労働が続くと腰など体を痛めてしまう方も多くいます。
力仕事や設置・組み立て作業が多いことから、福祉用具専門相談員は女性スタッフよりも男性スタッフの比率のほうが多いのが現状です。ただし、力仕事はある程度業者さんにも頼める場合もあるので、搬入作業などは無理の範囲で行えば体力に不安がある方も問題なく行えます。
私が勤務していた事業所でもやはり男性が多かったですが、女性も活躍していましたよ!
売上のノルマが課せられる
事業所によっても異なりますが、営業でノルマを課している場合があります。売上や営業件数などの具体的な数字を掲げ、毎月報告しなければならないことも。この点は介護職との大きな違いになるでしょう。
ノルマが課せられるのがプレッシャーになる方は、仕事がきついと感じるかもしれません。逆にノルマを達成することがやる気につながる方もいます。業績が給料や賞与に還元されるところもあるので仕事のモチベーションになる方もいるでしょう。
覚えることが多い
福祉用具専門相談員は幅広い知識が必要な仕事です。さまざまな種類の福祉用具に関しての正しい知識や特徴をしっかり把握して、ご利用者に最適な商品を提案しなければなりません。福祉用具に関する知識はもちろん、高齢者の心身の状況や介護保険制度についてなどの知識を備えておくのは必須です。
また、福祉用具は日々変化を遂げており次々とアップデートされていきます。新商品の情報にはアンテナを張っておき、その度に商品知識を理解しておく必要があります。
自分の知識を日々更新しながら対応していかなければならない点がきついと感じる方もいるかもしれません。
急な対応がある
福祉用具専門相談員は急にケアマネから福祉用具の手配をしてほしいと連絡が入り、対応しなければならない時があります。急な対応は営業時間外に入る場合も考えられます。
福祉用具に不具合が出た場合や、急に体調が悪くなり早急に準備しなければならなくなったりした場合にはすぐに対応が必要です。翌日まで待てない場合には朝まで自宅で過ごすことが難しくなってしまうため、時間外でもすぐに手配しなければなりません。準備できなかったことで事故のリスクも考えられます。
職員同士でフォロー体制が整っていれば問題ありませんが、時間外の対応が重なると大変だと感じてしまいます。
福祉用具専門相談員は介護職からの転職が有利
今回の記事では福祉用具専門相談員の仕事について解説しました。
福祉用具専門相談員の仕事は、介護職の経歴がある方が転職するにはとても有利です。これまでも知識経験が活かせる最適な仕事です。
介護職と同じように高齢者と関わりサポートする仕事ですが、その働き方は大きく異なります。大変に感じる面も多いので、自分の適性を見極め挑戦することをおすすめします。
今後のキャリアチェンジの一助になれば幸いです。